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2022.5.23臨床開発デジタルソリューション事業
ウェアラブルデバイスによる 1 年間の生活習慣データを取得する共同研究を開始 ~客観的トラッキングデータとコホートデータの組み合わせが未来型医療を牽引する~
【発表のポイント】
・東北大学東北メディカル・メガバンク機構、第一三共株式会社、武田薬品工業株式会社と株式会社MICINは、ウェアラブルデバイスを実装した共同研究を開始しました。
・ウェアラブルデバイスを2,000人の方に装着いただき、睡眠状態・心拍・活動量などの生活習慣に関するデータを長期間にわたって取得することを計画しています。
・取得したデータは、東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査(*1)で既に取得しているデータと合わせて関連解析を行います。
・この研究が、ウェアラブルデバイスに基づく個別化ヘルスケア時代に向けたモデルケースとなり、国内外における同様のプラットフォームの更なる構築や利活用を牽引することが期待されます。
【概要】
国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構(本部:宮城県仙台市、機構長:山本雅之、以下「ToMMo」)、第一三共株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長 CEO:眞鍋淳、以下「第一三共」)、武田薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長 CEO:クリストフ・ウェバー、以下「武田薬品」)と株式会社MICIN(マイシン、本社:東京都千代田区、代表取締役CEO:原聖吾、以下「MICIN」)は、2022年3月30日に共同研究を開始し、ウェアラブルデバイスの実装に向けた研究参加者募集を今秋に開始します。本研究では睡眠状態・心拍・活動量など自己申告では正確に把握しづらい日々の生活習慣情報を客観的、定量的かつ長期に取得し、東北メディカル・メガバンク計画(【参考1】)のコホート調査で既に取得している詳細調査データ、臨床データ、MRI画像データやゲノム情報などと合わせて関連解析を行います。客観的な評価としての睡眠状態や身体活動に関する情報と、コホート調査データを組み合わせた研究を進展させることで、生活習慣や環境要因を軸とした医学研究が飛躍的に向上し、精密医療や個別化ヘルスケアの実現を目指した創薬など革新的医学研究への応用の加速が期待されます。
【背景】
腕時計のように身体に装着して生体情報を日常的かつ継続的に取得できるウェアラブルデバイスは一般用、医療用共に世界中で普及が進んでいます。一般に、ウェアラブルデバイスには、心拍数や身体の動き(加速度)などを取得するセンサーが組み込まれており、これらのデータを解析することで、装着している人の睡眠状態、日中の活動状態、ストレス度合いなどを手軽にかつ客観的・定量的にデータとして継続取得することができます。
生活習慣が個人の健康状態に影響を与えることは、これまでの研究からも明らかになってきています。ToMMoが進めるコホート調査では、生活習慣が主な要素である環境要因と、ゲノム情報に代表される遺伝要因が複雑に組み合わさり疾患の発症にいたる仕組みを解明するために、参加者から多様な情報を収集してきました。同コホート調査では自記¬式調査票によって、生活習慣の情報を取得しています。調査票から得られる情報は非常に重要である一方で、参加者個々人の主観に基づいた回答による情報であり、客観的・定量的な研究を行う上では限界がありました。
こういった背景から、ToMMoと日本製薬工業協会(以下「製薬協」)、MICINは、2020年11月からウェアラブルデバイスを用いたパイロット研究(*2)を実施しました。ウェアラブルデバイスは詳細な活動量・睡眠時間などを継続的に取得できることが知られています。このパイロット研究には約30人が参加し、少なくとも1か月にわたり参加者が定められた方法通りにウェアラブルデバイスを着用しデータを蓄積可能なことが明らかとなり、さらに長期にわたる詳細かつ客観的な生活習慣データを取得できる展望が開けました。また、製薬協からもウェアラブルデバイスを用いた詳細な生活習慣データの集積の必要性が2021年の提言(【参考2】)に盛り込まれています。
本研究では、研究参加者にウェアラブルデバイスを1年間貸与し、長期にわたる詳細かつ客観的な生活習慣データを蓄積します。本研究により、東北メディカル・メガバンク計画が蓄積するデータに新たな付加価値を与え、精密医療や個別化ヘルスケアの実現を目指した創薬など革新的医学研究への応用をさらに加速させ、将来の医療発展につなげます。また、ウェアラブルデバイスに基づく個別化ヘルスケア時代に向けた情報発信や、一人一人が自身の健康・疾患管理ができる環境構築を可能にします。
【研究内容の詳細】
○研究組織
ToMMo
第一三共、武田薬品、MICIN
○研究期間
2022年3月から2025年3月まで
○研究対象者
2022年秋から脳と心の健康調査(*3)に参加された方のうち、本研究に同意(インフォームドコンセント)してくださった方
○目標参加人数
2,000人
○研究方法(研究参加者)
・1年間のウェアラブルデバイスの装着、充電および専用のスマートフォンアプリの管理
・四半期毎に30日間、貸与する家庭血圧測定器による1日2回の血圧測定
・四半期毎に30日間、貸与するデータログ型温湿度計(*4)による寝室の温度・湿度の取得(一部)
・四半期毎の郵送による調査票への記入
○研究方法(研究者)
・ウェアラブルデバイス、家庭血圧測定器およびデータログ型温度計により収集されるデータの保管と活用
・統計解析値の参加者への回付
【本研究に対する期待】
ToMMoの機構長である山本雅之は、「客観性の高い生活習慣情報を追加することにより、東北メディカル・メガバンク計画の複合バイオバンクのますますの充実が期待されます」と述べています。
第一三共の研究開発本部長の高崎渉は、「東北メディカル・メガバンク計画の質の高いコホート情報に、ウェアラブルデバイスによる客観的・持続的生活習慣情報が加わることで、予防・先制医療ソリューションの早期実用化が大きく前進すると期待します」と述べています。
武田薬品のニューロサイエンス創薬ユニット長のCeri Daviesは、「一人一人の生活習慣データをデジタル化し可視化することは、患者さんを中心に据えた医薬品の研究・開発を飛躍的に加速することにつながります。膨大なゲノム、医療、健康情報と組み合わせることで、ビッグデータを活用する新たな手法を開発し、精度の高い医薬品創出につながるだけでなく、患者さんの特性に応じた医療の還元につながることを期待します」と述べています。
MICINの代表取締役である原聖吾は、「ウェアラブルデバイスによるデータの取得とその活用について大規模な地域住民の方々に実装していく本研究の取り組みが、多様なデータを適切なプロセスの下で収集および活用していくための一つのモデルケースになることを期待しています」と述べています。
【今後の展望】
1年という長期にわたる生活習慣データをデジタル化し、豊富なデータを持つ東北メディカル・メガバンク計画と融合させる日本初の先進的な研究です。本研究により、ToMMoのコホート調査の上に長期的な生活習慣のデータ取得が可能であることが実証され、またさらに他のデバイスや手法による情報取得を追加する可能性も考えられます。多岐にわたる東北メディカル・メガバンク計画のコホート情報とデジタル化した生活習慣データとの組み合わせにより、生活習慣と健康・疾病との関連をより詳しく解析することが可能となり、精密医療や個別化ヘルスケアの実現を目指した創薬など革新的医学研究への応用がさらに加速することが期待されます。また本研究枠組みの更なる拡大・発展を目指すと共に、本研究が、ウェアラブルデバイスに基づく個別化ヘルスケア時代に向けたモデルケースとなり、国内外における同様のプラットフォーム構築や利活用を牽引することが期待されます。
【参考1】
<東北メディカル・メガバンク計画について>
東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。ToMMoと岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、平成 25 年より合計15 万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査等を実施して、試料・情報を収集したバイオバンクを整備しています。東北メディカル・メガバンク計画は、平成 27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が当計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。
【参考2】
製薬協 政策提言2021:
https://www.jpma.or.jp/vision/policy_recommendations2021.html
【用語解説】
(*1) コホート調査:一定の集団を対象に長期にわたって生活習慣と疾患の発症について調査することで、生活習慣または特定の事象の曝露と疾患発症リスクとの関係を解析するための分析疫学の一手法。
(*2) パイロット研究:本来目指す研究の前に、実施可能性の測定や問題点の洗い出し等のため実施する規模の小さい研究。ここで指すパイロット研究の課題名は「脳と心の健康調査参加者を対象としたウェアラブル機器による生活習慣データ取得実現に向けた予備的研究」
(*3) 脳と心の健康調査:2014年5月から実施しているMRI検査と認知心理検査のこと。1回目の調査には約12,000人が参加し、現在は2回目の調査を実施している。
(*4) データログ型温湿度計:自動で周辺環境の温度・湿度のデータを測定・保存する機器。